
はじめに:変化の時代における“現在”の意味
前回の記事では、日米がアラスカLNGを通じて築いてきた協力の歴史を振り返りました。今回はその歴史が「現在、具体的な投資枠と契約動向」へと形を変えて動き始めているフェーズを扱います。
「過去を土台に、今何が動いているか」を整理することで、次回“未来編”で扱う展望やリスクもよりクリアになります。
1. 約5500億ドル(≒80兆円)投資枠の構図
1-1. 投資パッケージの概要
2025年10月28日、日米は日本発の対米民間投資枠約5500億ドル(約80兆円)の実施文書に署名しました。対象分野にはエネルギーインフラ、LNG、重要鉱物、グリッド整備などが含まれます。S&P Global+2ホワイトハウス+2
このうち「エネルギー関連」の想定規模は最大3270億ドル(≒48兆円)に上ると報じられています。S&P Global+1
交渉では、日本の自動車輸出に対する米国関税率25%から緩和案15%への引き下げが条件となっており、投資合意が貿易調整を伴う構造であることも明らかです。Reuters+1
1-2. 日本企業の参加枠と論点
同パッケージを通じて、約20社の日本企業が米国側プロジェクトへの関与意向を示しています(例:ソフトバンク、三菱電機、日立など)Reuters+1
重要なのは、この投資枠が「日本が単にアメリカに資金を提供する」だけでなく、日本企業が米国内の産業・エネルギーインフラに参画する機会として位置づけられている点です。
ただし、国内では「利益配分で米国が9割、日本が1割という構図ではないか」との懸念も浮上しています。AP News
2. アラスカLNG輸入拡大の最新動向
2-1. 日本側の動き
2025年10月24日付で、東京ガスは、米アラスカLNGプロジェクトを手掛ける Glenfarne 社との間で「年間100万トンのLNG調達を2030年から想定」する覚書(LOI)を締結しました。Nippon+1
同時に、JERA も9月に同社との間で20年間契約の意向を表明しており、日本最大手電力・ガス会社がアラスカ回帰を本格検討していると言えます。Reuters
2-2. プロジェクトの構造と課題
アラスカLNGプロジェクトは、ノーススロープから約1,300kmに及ぶパイプラインで天然ガスを南部へ輸送し、液化して輸出する構想で、総事業費440億ドル(約6兆円超)とも言われています。kdll.org+1
しかしながらコスト構造が厳しい点、最終投資判断(FID)が2025年末〜2026年にかけて予定されており、実行までのハードルは依然高いままです。Reuters
3. 現フェーズで見える“3つのポイント”
| ポイント | 解説 |
|---|---|
| ① エネルギー同盟の具体化 | 投資・契約という“数字”が示されたことで、日米エネルギー協力が理論から実務へ移行しています。 |
| ② 企業参画の重み | 日本企業が米国側プロジェクトに「単なる購入者」から「共同開発・出資者」へと役割転換しつつあります。 |
| ③ 採算と主権のジレンマ | 巨額案件ゆえに採算性・主権(国益)の観点で日本側の慎重論も根強く、“協力”と“依存”の境界が問われています。 |
おわりに(次回予告)
今回は現在編として、日米が「80兆円級投資+アラスカLNG再参入」という現実の動きを見てきました。
次回はいよいよ 未来編。日本は「ロシア・中国・台湾」など複雑な地政学的環境を抱えながら、エネルギー・経済安全保障の観点から何を選び、どこへ向かうのかを展望します。
どうぞご期待ください。
出典・参考資料
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U.S.–Japan fact sheet: White House 2025年7月23日。ホワイトハウス
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Reuters “Japan heavyweights … $550 bln US investment package” 2025年10月28日。Reuters
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S&P Global “US, Japan sign agreement to implement $550 bil investment in US energy, LNG…” 2025年10月28日。S&P Global
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Nippon.com “Tokyo Gas to Consider Procuring Alaska LNG” 2025年10月24日。Nippon
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Alaska Beacon “Tokyo Gas signs preliminary agreement with trans-Alaska gas pipeline developer” 2025年10月28日。Alaska Beacon
